2018/05/07 更新過失相殺

被告の時速144㎞走行等の無謀運転に起因する自損事故で、同乗者が死亡した事案につき、好意同乗減額を否認した事例

京都地裁 平成29年7月28日判決

自保ジャーナル2010号

今回は、被告(運転者)の無謀運転を原因とする自損事故につき、死亡してしまった同乗者の好意同乗減額を否認し、被告に100%の賠償責任を認めた裁判例をご紹介します。

【事故の概要】

被告(運転者)は、最高速度が時速50㎞の一般道路であるにも関わらず、そのトンネル内を時速約144㎞で走行し、減速のためブレーキを踏んだところ、スリップして道路側壁に衝突する自損事故を起こしました。被害者である男性(22歳)は、被告の運転する乗用車(以下、「本件車両」といいます。)に友人と同乗しており、本件事故当時は、本件車両の後部座席で寝ていました。被害者は、本件事故により脳挫傷の傷害を負い、死亡しました。
なお、刑事事件において、被告は、危険運転致死罪で懲役3年6月の実刑判決に処されています。

【当事者(被告)の主張】

上記の事案において、被告は、速度を出して運転することについて、被害者を含む他の同乗者の黙示的な承諾を前提としており、かかる運転を承諾していた被害者についても相応の責任が認められ、相応の過失相殺(好意同乗減額)がなされるべきであるという旨の主張を行いました。

また、本件事故当時、被害者はシートベルトを装着していなかったところ、シートベルトを装着していれば重篤な傷害を負うことはなかったのであるから、この点を考慮して相応の過失相殺を行うべきであるとの主張もしています。

【裁判所の判断】

裁判所は、「好意同乗者の損害賠償額が減額されるのは、事故発生の危険性を増大させるような行為を誘発したり容認したりしていた場合に限られると解するのが相当である」旨判示した上で、他の同乗者の供述等を踏まえると、①被害者が被告に対し、速度を出すことを求めていたとは認めがたく、危険の増大に関与していたとは認めがたいこと、②被害者を含む後部座席の同乗者は、被告と話をすることもなく基本的に寝ていたのであり、被告の速度超過を積極的に容認していたかどうかも判然としないことから、好意同乗を理由とする過失相殺を否定しました。

また、シートベルトの不装着については、①本件事故は、被告の無謀運転に起因するものと言わざるを得ないこと、②被告が、被害者にシートベルトの着用を何ら求めていないことを踏まえれば、シートベルトを着用していなかったことをもって過失相殺するのは相当ではないと判断しています。

結論としては、被告に100%の賠償責任を認めています。

【コメント】

タクシーなどではなく、本件のように、他人の車に無償同乗(好意同乗)した場合には、過失相殺が問題となることがあります。

無償同乗したこと自体を理由とする過失相殺は否定されるのが原則ですが、同乗者に一定の帰責事由(危険承知、危険関与・増幅等)がある場合には、賠償額の減額が認められることがあります。

例えば、飲酒することを承知で加害車両に乗りカラオケレストランに行き、飲酒後、加害車両に同乗した際に、加害者が70㎞オーバーの速度でハンドル操作を誤り衝突した事故につき、飲酒の影響を考慮し、20%を減額した裁判例(東京地判平成11年7月29日)等があります。

(文責:弁護士 村岡 つばさ

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。