2019/05/10 更新高次脳機能障害

19歳男子の自賠責3級認定高次脳機能障害の症状固定後の付添費について、母親が67歳になるまでの18年間は日額4,000円を、その後、被害者の平均余命までの43年間は日額6,000円を認めた事例

さいたま地裁 平成29年7月25日判決

交通事故民集50巻4号

今回は、高次脳機能障害(3級3号)が認定された19歳男子の症状固定後の付添費について、を、母親が67歳になるまでの18年間は日額4,000円を、その後、被害者の平均余命までの43年間は日額6,000円を認めた裁判例について解説します。(本件の争点は多岐に渡りますが、今回は症状固定後の付添費の問題に絞って解説します。)

本件では、事故当時17歳の男子(原告)が、渋滞中の道路を自転車で横断中に、直進してきた普通自動車に衝突され、びまん性軸索損傷、脳挫傷、左耳挫創の傷害を負い、その結果高次脳機能障害の後遺障害(自賠法施行令別表第二3級3号)が認定されました。本件訴訟では、過失割合、後遺障害の程度、逸失利益、付添費、慰謝料などが争点となりましたが、付添費(症状固定後の付添費)について、裁判所は次のような判断をしました。

「(ア)付添の必要性
  原告Aは、前記のとおり、日常生活動作はほぼ自立したものの、一部介助が必要であるほか、記  
憶力、判断能力の低下と失調による身体の不安定性があるため、日常生活全般にわたって見守り
や声掛けが必要であると認められる。
(イ)原告C(注:母親)が67歳に達するまでの間
  原告Cは、昭和40年○月○○日生まれであり、原告Aの症状固定時である平成26年11月30日
時点で49歳であったところ、原告Cが67歳になるまでの18年間は、原告Cによる付添が可能であ
ると認められ、上記付添の内容に照らし、日額4,000円を相当と認める。
(ウ)原告Cが67歳以降
  原告Cが67歳に達して以降は、職業付添人による付添が必要となる可能性が高いところ、原告A 
の平均余命である61年までの間、上記付添の内容に照らし、日額6,000円を相当と認める。」

結論として、症状固定後の付添費として、3,303万3,449円が認められました。

<コメント>
後遺障害が認定された場合に、必ずしも症状固定後の付添費が認められる訳ではありませんが、重度の高次脳機能障害などで、健常者による看視や見守りが必要と判断された場合には、症状固定後の付添費が認められることがあります。

そして、その金額としては、過去の裁判例を見ますと、付添いが、近親者によるものか・職業付添人によるものかといった事情や、付添いが必要な程度・頻度などによって決まっていきます。

本件においては、被害者は日常生活動作についてはほぼ自立したものの、一部介助が必要であるほか、記憶力や判断力の低下等を理由として、日常生活全般にわたって見守り、声掛けが必要と判断されました。その上で、実際に付添を行っていた母親が67歳になるまでは近親者の付添い、それ以降は職業付添人による付添いを想定し、付添費が算出されました。

とりわけ、重度の高次脳機能障害の事案においては、将来の付添費や介護費用は、重要な争点になってきます。金額も大きいため、高次脳機能障害に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

(文責:弁護士 前田 徹

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。