12級外貌醜状の後遺障害が認められた主婦について、労働能力喪失を認めた裁判例
名古屋地裁 平成31年1月23日判決
自保ジャーナル2043号
今回は、顔面に神経麻痺と口元と頸部に瘢痕を残し、自賠責12級14号が認定された17歳兼業主婦の後遺障害逸失利益について、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間49年間、基礎収入を賃金センサス女性学歴計全年齢平均で認めた裁判例について解説します。(本件の争点は多岐に渡りますが、今回は後遺障害逸失利益の問題に絞って解説します。)
本件事故は、17歳の被害者女性が、加害者運転の乗用車の後部座席に同乗していたところ、加害者が第2車線から第1車線に車線変更しようとした際に、ハンドル操作を誤り道路左脇のガードレールに衝突させたという単独事故です。
被害者は、本件事故による怪我の治療を約16カ月間続けましたが、顔面麻痺及び顔面・頚部瘢痕による外貌醜状、左下口唇の知覚異常及び知覚鈍麻の症状が残り、後遺障害(併合12級)の認定を受けました。
裁判では、そのうえで、被害者の逸失利益の算出方法が問題になりました。
被害者は、症状固定時18歳で、後遺障害により賃金労働及び家事労働のいずれについても労働能力を喪失したといえるから、67歳までの49年間について、後遺障害等級12級に対応する14%の労働能力を喪失したというべきであると主張しました。
これに対して、加害者側は、左下口唇知覚異常及び知覚鈍麻は家事労働に影響せず、逸失利益を発生させるものではない、また、顔面部の瘢痕・頚部の瘢痕も就労に影響するものではないと主張し、逸失利益は認められないと反論しました。
この逸失利益の争点について、裁判所は概ね次のように判断して、結論として、逸失利益の金額として金341万7805円を認めました。
②被害者は、若年者であったことから、本件事故に遭わなければ相当幅広い就労可能性があったものと認められるところ、被害者としては、顔面神経麻痺の影響で口元が歪むようになり笑顔が作れなくなったことから、今後接客業に従事することは困難であると感じており、実際被害者は事故前はアパレルショップの店員として接客業に従事していたところ、事故後に一度復職したものの、接客業務に支障を感じて退職したのであるから、顔面神経麻痺によって被害者の就労可能性に直接の制限が生じたということが出来る。
③本件事故による後遺障害の影響によって対人関係が消極的となり、接客業への就労可能性が一定程度制限されているほか、現在従事している家事労働にも心理的負担を感じるという意味で間接的な影響が生じているということが出来るから、かかる後遺障害に基づく逸失利益の発生を認めるのが相当である。
④労働能力喪失率については、将来の就労可能性に対する影響の程度及び家事労働に対して直接的な影響までは生じていないことに照らし5%を、労働能力喪失率については、症状固定時(18歳)から67歳までの49年間を、それぞれ相当と認める(341万7805円)。
<コメント>
醜状痕の後遺障害逸失利益については、一般的に、「被害者の性別、年齢、職業等を考慮した上で、醜状痕の存在のために配置転換されたり、職業選択の幅が狭められるなどの形で、労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合には、一定割合の労働能力の喪失を肯定し、逸失利益を認める」(赤い本下巻2011年(平成23年)版、40頁)と言われております。
経験上、裁判において裁判官に、「労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合」であると認められるのは、ハードルが高いと思います。
本件では、事故当時、被害者の年齢が若かったこと、家事労働においても買い物等での外出や他者との会話を全く避けることは出来ないこと、醜状が業績や収入に影響し得る職種への就業が事実上制限されたこと、などを裁判官が重視したのだと考えられます。
後遺障害等級が認定されている事案の場合には、仕事内容や収入額に変化がなくても、逸失利益が認められる場合がありますので、そのような場合には、一度専門家にご相談されることをお勧めいたします。
(文責:弁護士 大友 竜亮)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。