2018/05/14 更新素因減額

追突された80歳女子同乗者の事故と胸椎・腰椎圧迫骨折との因果関係を認め、骨粗鬆症による素因減額を否認した事例

横浜地裁 平成29年8月23日判決

自保ジャーナル2008号

今回は、80歳女子が交通事故に遭い、事故と胸椎・腰椎圧迫骨折との因果関係が認められ、骨粗鬆症による素因減額が否認された裁判例をご紹介します。

平成26年4月5日、被害者である原告(80歳、女性、家事従事者)は、子供が運転する乗用車の助手席に同乗中、被告が運転する乗用車に衝突されてしまいました。そのため、原告は腰椎捻挫、胸椎・腰椎圧迫骨折等の傷害を負い、約1年間通院することとなってしまいました。そこで原告は、交通事故により人身損害・物的損害を受けたとして、被告に対し不法行為ないし自賠法3条に基づく損害賠償を請求しました。

しかし原告は、第12胸椎、第1・3・4腰椎に椎体骨折の既往症を有していました。また、骨粗鬆症の既往症も有していました。そのため被告は、原告には既往症があり、事故直後に明らかな新たな椎体骨折は認められなかったことから、本件事故と傷害との因果関係を争い、さらに素因減額がされるべきであると主張しました。

裁判所は、

  • 既往症として、原告には第12椎体、第1・3・4腰椎に椎体骨折が認められたこと
  • 原告は事故前に、問題がなければコルセットを外しリハビリを開始しようと告げられており、介助なく歩行できる状態であり、安静のために中止していた家事も再開できるようになっていたこと
  • 原告の骨密度は、若年者の48%であったが、これは同年齢の平均値の91%であったこと

を認定しました。

その上で、本件事故後、痛みのためそれまで行っていた家事も行えなくなったことや、 骨粗鬆性椎体骨折についてはレントゲン検査だけでは骨折の有無を断言できない場合があること、高齢者の骨粗鬆症に伴った胸腰椎骨折においては経過中に椎体の圧潰が進行する場合も多いとされること、本件事故後に原告が新たに受傷するような新たな出来事があった証拠がないことからすると、原告の第9胸椎椎体骨折、第2腰椎椎体骨折は本件事故に起因して生じたものと認められると事故との因果関係を認定しました。

素因減額については、椎体骨折について骨粗鬆症が影響しているものと認められるが、原告の当時の年齢からして、骨密度が同年代の者と比較して大きく低下していたものではない等の事情から、素因減額すべきものとは認められないと判断しました。

因果関係が争われた場合、事故前及び事故後の経過を詳細に述べ、傷害が事故によって生じたものであることを立証する必要があります。

本件では、レントゲン検査やMRI検査だけでなく初診時の問診票等も取り寄せ、どの欄に〇をつけているか等事細かに証拠を提出し、因果関係が認められました。

素因減額とは、被害者の有していた身体的性質が損害の発生の一因となっている場合に、公平の観点から、賠償額の減額が認めることです。

本件では、原告の骨密度は、若年者の48%であったが、同年齢の平均値の91%であったことから、骨密度が同年代の者と比較して大きく低下していたものではないと素因減額を否定しました。これは、平均値から著しくかけ離れていないのであれば、人には個体差が予定されている以上、素因減額をするべきではないと考えによるものです。

被害者の方は、様々な既往症を抱えている方が多くいらっしゃいます。保険会社は被害者の方に、既往症による因果関係の否定や素因減額を迫ります。しっかりと因果関係を立証すること、素因減額されるべき既往症ではないことを主張することが大事であることを再認識することとなった裁判例でした。

(文責:弁護士 根來 真一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。