追突された65歳女子の頸椎椎間板ヘルニアは、事故を契機に症状が発現したとして自賠責同様14級9号を認定した事例
京都地裁 平成29年9月15日判決
自保ジャーナル2011号
今回は、65歳女子が追突事故に遭い、頸椎椎間板ヘルニアは事故を契機に症状が発現したとして自賠責同様14級9号を認定した裁判例をご紹介します。
平成26年9月13日、被害者である原告(65歳、女性、有職主婦)は、知人が運転する車に同乗中、被告が運転する貨物車に追突されてしまいました。そのため、原告は右肩関節捻挫、頸椎椎間板ヘルニア等の傷害を負い、約1年間通院することとなってしまいました。そこで原告は、交通事故により損害を受けたとして、被告に対し損害賠償を求める訴えを提起しました。
しかし被告は、原告が本件事故により頸椎椎間板ヘルニアを負ったことを否認、原告の頸椎椎間板ヘルニアは経年性のものであり、原告には本件事故前から頸椎椎間板ヘルニアの疾患があったと主張しました。これは、原告の傷害内容を争い、さらに素因減額を主張したということとなります。
裁判所は、下記の事実を認定しました。
- 自賠責保険の後遺障害等級認定においては、頸椎椎間板ヘルニア、右肩関節捻挫に伴う頸部痛等の症状について、提出の画像上、本件事故による骨折、脱臼等の明らかな外傷性変化は認め難く、後遺障害診断書及びその他診断書上、自覚症状の裏付けとなる客観的な医学的所見には乏しいことから、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられない。しかしながら、症状経過、治療経過等を勘案すれば、将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられていることから、「局部に神経症状を残すもの」として、別表二第14級9号に該当するものと判断された。
- 原告が、本件事故後まもなく、右肩の痛みや右上肢のしびれを訴えており、ジャクソンテスト及びスパークリングテストも陽性であった。
- その後、Cクリニックにおいて、継続的に消炎鎮痛等の処置を受けていた。
- Cクリニックの担当医は、平成27年1月撮影のMRI検査で椎間板ヘルニアが見られたため、新たな治療としてブロック注射を行った。
- 平成27年3月末には、保険会社の治療費の支払が打ち切られたが、Cクリニックの担当医は、その後も治療継続が必要であると判断し、原告は4月以降も治療を受けた。
そのうえで裁判所は、下記の判断を示しました。 治療経過、担当医の判断は、原告の傷害内容、程度及び検査結果に対応した合理的なものといえ、特段不自然な点は見当たらない。よって、治療は必要かつ相当なものといえる。
頸椎椎間板ヘルニアについては、画像上外傷性変化はないとされており、外傷によるものと認めるのは困難であるが、本件事故前は、原告にはしびれ等の症状はなかったのであるから、本件事故を契機として症状が発現したものと認められる。そのため、頸椎椎間板ヘルニアに対する治療も、本件事故による必要な治療と認めるのが相当である。
さらに、素因減額の点について、本件事故前から変性があったとしても疾患に当たらない程度のものであり、さほど重いものでなかったといえる。そして、原告の年齢及び上記治療期間も踏まえれば、損害の拡大に寄与したものとして素因減額を行うことが損害の公平な分担の見地から相当であるとは認められないと素因減額を否認しました。
傷害内容が争われた場合、事故前及び事故後の経過を詳細に述べ、傷害が事故によって生じたものであることを立証する必要があります。
本件では、事故前にしびれ等の症状がなかったこと、事故直後の自覚症状、その後の検査結果、治療終了までに行われた治療内容、打ち切り後も通院を続けたこと等について詳細に立証し、頸椎椎間板ヘルニアについて事故を契機に症状が発現したことが認められました。
素因減額とは、被害者の有していた身体的性質が損害の発生の一因となっている場合に、公平の観点から、賠償額の減額が認めることです。
本件では、原告の年齢及び治療期間等から、素因減額を否認しました。これは、平均値から著しくかけ離れていないのであれば、人には個体差が予定されている以上、素因減額をするべきではないとの考えによるものです。
被害者の方は、被害者であるにもかかわらず、保険会社の傷害内容を争われたり、素因減額を迫られます。しっかりとした主張立証をすることが大事であることを再認識することとなった裁判例でした。
(文責:弁護士 根來 真一郎)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。