脊柱変形障害で後遺障害8級相当の認定を受けた54歳の主婦の逸失利益を14%の労働能力喪失と認定した事例
東京地裁平成29年5月29日判決
自保ジャーナル2016号
今回は、脊柱の変形障害により後遺障害8級相当の認定を受けた54歳の主婦の女性につき、逸失利益算定における労働能力喪失率を14%と認定した裁判例をご紹介します。
被害者である原告(54歳の女性)は、駐車場内を歩行中に被告車両に衝突され、第12胸椎破裂骨折、第3腰椎圧迫骨折等の傷害を負い、52日間の入院、約11か月の通院の後、脊柱の変形障害として、自賠責保険において、第8級相当の後遺障害の認定を受けました。
原告は、本件の逸失利益算定における労働能力喪失率は45%が相当と主張しましたが、裁判所は、①原告の胸腰椎部の可動域に大きな制限が生じておらず(参考可動域の2分の1以下となっておらず)、運動障害があるとは認められないことや、②原告の症状の経過(「日常生活動作に特に問題はなく、時々腰痛が軽くある程度」)を考慮すると、労働能力喪失率は14%をするのが相当であると判断しています。
そもそも、自賠責保険においては、「後遺障害〇級の場合には〇%の労働能力喪失を認める」という風に、後遺障害の等級ごとに、労働能力喪失率につき、一定の目安が設けられており、裁判においても、この目安に従って労働能力喪失率が認定されることが多いです。例えば、本件で原告が認定された8級は、45%の労働能力喪失率が目安となっています。
ただし、これはあくまでも目安であるため、具体的な事情(症状、仕事内容等)により、実際に認定される労働能力喪失率は異なります(目安より高い喪失率が認定されることもあります)。
本件の脊柱変形障害であったり、醜状障害(顔面の傷等)、上記目安よりも低い労働能力喪失率とされることが非常に多い傷病です。今回でも、目安よりも30%以上も低い労働能力喪失率と認定されています。
これは、脊柱の圧迫骨折・破裂骨折といった傷病は、就労において大きな支障とならないという考えに基づきます。実際に、脊柱圧迫後の変形障害(11級)にいては、労働能力の実質的喪失はほぼ生じないとする医師の論文もあります。
脊柱の変形障害の事案においては、日常生活・仕事上の具体的な支障をしっかりと伝えることが大事となってきます。本件のように、運動障害が生じておらず、かつ症状としても軽微という事案においては、上記目安よりもかなり低い喪失率が認定される可能性もあるため、訴訟提起をする前段階で、慎重に見極める必要があります。
(文責:弁護士 村岡 つばさ)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。