2019/01/30 更新その他

共同不法行為の成立が、後から衝突した車両については否認された事例

名古屋地裁 平成30年3月30日判決

自保ジャーナル2025号

今回は、原告が車両に衝突され転倒した後に、別の車両にさらに衝突された事案において、後から衝突した乗用車の共同不法行為責任を否認した事例についてご紹介します。

78歳の原告は、平成26年10月1日午後7時頃、信号機のない交差点付近の片側1車線道路を歩行横断中、右側から直進してきた被告Y運転の普通乗用車に衝突され、転倒したところを路外駐車場から進入してきた被告W運転の普通乗用車に衝突され、右肋骨多発骨折、右肘頭骨折、右上腕骨近位端骨折等の傷害を負い、77日入院、96日通院し、自賠責8級6号右肩関節機能障害、同12級13号右肘疼痛から併合7級後遺障害認定を受け、既払金175万2,774円を控除し4,316万4,517円を求めて訴えを提起した。

これに対して裁判所は、 Y乗用車と衝突後、転倒した原告に接触したW乗用車の共同不法行為責任について「原告の受傷内容は、右肋骨多発骨折、右肘頭骨折、右上腕骨近位端骨折、右坐骨骨折であり、これらは相当な衝撃を受けたことにより受傷したものと考えられるところ、被告丙川は、時速約10キロメートルで西行き車線に進入し、コツンと音がしたことから直ちに停車した後、一旦後退して、避けて前方に進んだ上で停車したこと、丙川車両の左前バンパー下部には払拭痕しか認められなかったこと、原告も、1回目の衝突で体の右半身(右の頬、肩及び胸辺り)に強い痛みを感じたが、2回目の衝突については、体のどこにぶつかったか、どこに痛みが生じたかを覚えていない旨を供述していることからすると、丙川車両との接触の程度は、極めて軽微なものであったと認められる。加えて、原告の受傷内容は、上記のとおり右半身に関する骨折ではあったが、原告は、本件事故後、右側を下にして横たわっており、丙川車両が原告の右半身と接触したとは考え難い。このような事情からすると、丙川車両を原告に接触させた行為は、乙山車両による接触行為と共同の不法行為を構成しない。」と判断し、転倒した原告に衝突した丙川(被告W)については共同不法行為責任を否認した。

民法719条の共同不法行為責任とは、AとBが原因となって、Cに損害を加えた場合に、AとBそれぞれが連帯して責任を負うという不法行為の類型を言います。損害を被った被害者のCは、共同不法行為が成立する場合、交通事故の過失割合に関わらず、AもしくはBのどちらに対しても、全額の損害賠償を請求することが出来ます。

本件で、被告Yと被告Wに共同不法行為が成立すれば、被害者は、被告Yと被告Wのどちらに対しても損害賠償を請求できることになります。

もっとも本件では、前記のように①受傷の内容から衝撃が相当大きかったと思われること、②原告と被告Wの供述の内容から、Wの原告への接触の程度は軽微だったと思われること、③原告の受傷の箇所からWの車両と接触したとは考え難いこと、等から共同不法行為の成立を否定しました。

最終的に本件裁判例では、「原告にも、道路を横断するに当たり、道路を走行中の車両を十分に確認しなかった過失があるというべきであるから、本件事故は、原告と被告乙山の過失が競合して生じたものと認められる。その過失割合については、本件事故態様、道路状況、原告が高齢者であることから、被告乙山の方が大きいというべきであるが、夜間であったこと、乙山車両の衝突箇所が左ドアミラーであり、乙山車両の速度も考慮すると原告は、乙山車両がかなり接近した時点で横断を開始したと認められることなども考慮し、過失割合は、原告:被告乙山=25対:75と認めるのが相当である。」と判断しました。

本件裁判例は、複数の事故が同時期に発生した場合の共同不法行為責任の成否や過失割合を考える上で参考になると思い、今回注目の裁判例としてご紹介させていただきました。

(文責:弁護士 松本達也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。