2019/03/28 更新過失相殺

右折乗用車の注意義務違反は認められないと自動二輪車の100%過失を認めた事例

さいたま地裁 平成30年7月13日判決

自保ジャーナル2030号

今回は、黄信号で進入の対向直進自動二輪車の時速100キロメートルを上回る高速度走行を予見すべきとは言い難く、右折乗用車の注意義務違反は認められないと自動二輪車の100%過失を認めた裁判例をご紹介します。

平成25年9月7日午後10時頃、64歳女性が運転する乗用車が交差点を右折中に、21才男性が運転する対向自動二輪車に衝突される事故に遭いました。
そして裁判においては、双方が「専ら自動二輪車側の過失によって生じたもので、乗用車側に過失はない。」「本件事故が専ら自動二輪車側の過失により生じたということはできず、むしろ乗用車側に過失があったことは明らか」と相手方が加害者である旨の主張をしました。

裁判所は、本件の事故態様について、下記のように認定しました。

  • 乗用車は、本件交差点の停止線手前にさしかかった際に対面信号機が黄に変わり、対向車両の有無を確認して、時速約30キロメートルで交差点に進入した。
  • 自動二輪車は、その時点で、衝突地点から少なくとも85メートル以上離れた地点を走行していた。既に歩行車用信号は赤になっていて、信号機が黄になることも当然に予見しうる状況にあった。
  • 自動二輪車は、制限速度時速60キロメートルの道路を、時速100キロメートルを上回る速度で走行していた。交差点の手前で停止することは不可能であったことから、そのまま走行して赤に変わる直前に本件交差点に進入した。
  • 自動二輪車は、既に右折を始めており、交差点の出口に差し掛かっていた乗用車を回避することができず、乗用車の側面に衝突した。

その結果、裁判所は下記のように判断しました。

  • 本件事故については、法定速度を大幅に上回る高速度で国道を走行していた自動二輪者が、対面信号機の表示を殊更に無視するかのような態様で本件交差点に進入したことによって生じたものということができ、自動二輪車側に過失が存在することは明らかである。
  • 乗用車側については、本件事故が夜間に生じており、しかも相手は自動二輪車であって前照灯の照明から距離や速度を把握し難いものであったことからすれば、仮に自動二輪車の存在を認識していたとしても、法定速度を大幅に上回る高速度で走行していることまで予見すべきであったとは言い難い。また、その存在を認識していなかったとしても、やはりそのような高速で遠方から対向直進してくる自動二輪車を予見すべきであったとは言えない。
  • 乗用車につき、交差点を右折する車両の運転者として負うべき注意義務に違反したと認めることはできず、仮に一定の落ち度とみるべきものがあったと考えたとしても、本件事故の態様に照らせば、本件事故はもっぱら自動二輪車の過失によって惹起されたものと言わざるを得ない。
  • 本件事故の過失割合は、乗用車:自動二輪車=0:10と認めるのが相当である。

信号の変わり目に侵入した自動二輪車と乗用車の事故においては、一般的には双方に過失割合が認定されます。例えば、名古屋地裁における平成23年10月13日判決は直進自動二輪車に7割の過失、東京地裁における平成23年11月25日判決は右折乗用車に7割の過失を認めました。

しかし、双方に過失割合を認定したのでは、事故の実態と合致していない事案も存在します。そのような場合、刑事記録、現場記録、目撃者の証言、衝突跡等から、裁判で徹底的に争うこととなります。本件でも刑事記録等が提出され、事故原因がもっぱら自動二輪車側にあることが認定されています。
具体的な証拠を基に、主張立証を尽くしていくことが大事であることを再認識することとなった裁判例でした。

(文責:弁護士 根來 真一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。